石黒講師のインタビュー2回目です。
観察(オブザベーション)、ブレインストーミングとは?
さらにラピッドプロトタイピングとは?

2017年7月のJ-EXCEEDで取り上げる「デザイン・シンキング」手法について、石黒講師により具体的に語っていただきました。

観察をすることで、本質に近づける

JMA:「デザイン・シンキング」とは、具体的にどのようなプロセスがあるのでしょうか。

石黒氏:デザインには、オブザベーション(観察)、ブレインストーミング(集団思考)、ラピッドプロトタイピング(高速試作造形)という3つの柱があります。私の解釈だとこの3本の柱で進めることになっています。

JMA:オブザベーションとは「観察」ですよね。

石黒氏:確かに「見る」ことなのですが、重要なのは「モノ」ものばかりを見るのではなく、「人の周り」をしっかりと観察することです。ちょっとやってみましょう。目をつぶって椅子を想像してください。できましたか?

JMA:できました。

石黒氏:どのような椅子でしたか?

JMA:背もたれがなくて脚が4本ある丸椅子、バースツールのようなものを思い浮かべました。

石黒氏:なるほど、人はいましたか。

JMA:いませんでした。

石黒氏:そこが重要です。人が使うものなのに、新しい未来を道具を通して創造するときに主役の人が入ってこないものなのです。観察をしないでやるということは、目隠しをしたまま自転車をこぐようなものです。自分の想像の中でものを作ってしまいます。だから、皮膚感覚みたいなものもなくなってしまうのです。実際に観察すると、「椅子」がいろいろな使い方を反映してできていることが分かります。

JMA:なるほど

石黒氏:人とものの関係を見ないでものを作ると、高い確率で本質から外れることがあります。「動詞を探す」と呼んでいますが、ものが動きだすところ、人と絡み合うところまでしっかり観察すると、モノの本質に近づけ、アウトラインが引けるようになります。

今回のコースでは、「見る」「記録する」を一番重要と捉える

JMA:「動詞を探す」ですか。先ほど見せていただいた写真のなかにも、さまざまな「椅子」の用途がありました。ダイニングにある椅子、リビングにある椅子、子供部屋にある椅子。ものが乗っている椅子、というのもありました。

石黒氏:最後の椅子の用途に合う動詞は「置く」です。ここまで行くと、椅子はもう、人が座りません。それぐらい人間は不可解です。「椅子」とひと口にいっても、クライアントとの協業の中で投影すべき椅子を人と絡めないで考えるのは難しいでしょう。だから、その辺の皮膚感覚をしっかりつかむためには、観察しかありません。

JMA:用途が異なれば、求められる機能も異なってくる、と?

石黒氏:その通りです。そのことで、椅子は椅子でも可能性としてものすごい分厚さが出てきます。そのフィールドを広げていかないと、本当に軽薄なモノしか生まれません。日本でデザインの勉強をしている人は多分、その辺に苦しんでいると思いますが、よく観察さえすれば、絶対に才能が枯れることはないでしょうね。

JMA:平均的な人体模型をもとに肩幅やお尻の幅、座高などを測定したうえで、座った際に心地よいと言われている角度を人間工学的に割り出せば、椅子として仕上がるように思います。

石黒氏:非常につまらない椅子を作るならそうなります。でも、人間を数値化するのは最も恐ろしいことです。ここからは哲学的なアプローチになりますが、人間を人間のままとらえるためにはまず観察することが必要です。それも単に観察するだけでなく、できるだけ客観的に観察したいので、写真を撮らせるという手段を取ります。そうすることで単に対象を理解するだけでなく、自分や周囲の状況を投影することができます。さらに、人とのコミュニケーションも可能になります。単によく見て記録するという最初のステップは、小さな一歩ではあるのですが、今回のワークショップで1番重要な部分になります。これをやることでものを見る目線やものの見方、とらえ方が結構分かってくると思います。

JMA:インターネットで「デザイン・シンキング」と検索すると、「エスノグラフィ手法を用いて」と出てきてしまい、腹落ちしませんでした。今、写真を見ながらお伺いした「動詞を探す」という言葉が、ストンと来ました。

石黒氏:この見方には深みがあり、本当によく見る人は一瞬で本質をとらえ、言語化します。しかし、その技術をすぐに習得することは難しいので、その一端に触れられる形ができたらいいと思っているところです。

ブレインストーミングとは、「飛躍」すること。シームレスな議論を

JMA:次に「ブレインストーミング」は、いかがでしょうか。

石黒氏:ブレインストーミングはみなさん、把握していると思いますが、「飛躍」することです。コミュニケーションの意味もあります。1人では思いつかないようなアイデアが生まれる、解決法の幅が広がる、互いの意見を共有できるというメリットを持っています。JMAのワークショップもこの辺が重要です。

JMA:意見の共有ですか。

石黒氏:何かを想定するときにどうしても固い言葉になってしまいますが、その中にはいろんな意味が含まれていると考えます。今回、写真を撮ったあとで意見交換すると、すんなりと心の中にあるものを共有でき、コミュニケーションできるのではないでしょうか。

JMA:なるほど

石黒氏:単なるアイデア出しのブレインストーミングではなく、素材を前にしてさまざまな人が一定の方向に向かい、意見を激突させることが、ワークショップでは重要になります。アイデアの評価をしないところは、IDEOのルールに近いですね。普通は評価するでしょう。

JMA:しますね、必ず。

石黒氏:変なことをいうと笑われると考え、ワイルドなアイデアを出すことが苦手な人も少なくありません。他人のアイデアから積み上げていこうとも思いがちです。なので、そういうことをシームレスに議論していくコミュニケーション手段が必要になると考えています。

【第2回はここまで】

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