石黒講師のインタビュー、3回目です。
三つの段階である最後のラピッド・プロトタイピング(高速試作造形)とは?
石黒氏の考えるデザイン・シンキングとは何か?

2017年7月のJ-EXCEEDで取り上げる「デザイン・シンキング」手法について、石黒講師に語っていただきました。

暗黙知をベースに本質をディスカッションする

JMA:三つ目の「ラピッド・プロトタイピング」はいかがでしょうか。

石黒氏:「ラピッド・プロトタイピング」とは、自分の表現を体験化することです。なぜ、ものを作ってほしいのかということの理由が概念だけで終わってしまうことがありますが、概念だけだと頭の中で考えた仮説が正しいかどうか、検証する手段がありません。未来の概念、アイデア、方向性を担保せずに、あいまいなままで終わらせてしまうこともよくあります。でも、どれだけ格好の良い言葉で締めくくっても、中身があいまいなままだと、何かもやもやした状態になってしまうのです。

JMA:「つまり、なんだったのか」と思うことはありますね。

石黒氏:ただ、体験はものすごいもので、人間はものを前にしたとき、概念でなくて形を目にすると、それが良いものなのかどうか一瞬で見抜きます。だから、ある程度形になって、そこにシミュレーションされたら、うそをつけなくなります。モノを作り始めたら、だれもがすごく頑張り、方向性を明確にしていきます。体験化を利用すれば、うそをつかずに万人に共有できる概念が生まれるのです。言語にできない暗黙知を表現する意味もあります。言葉はやはり難しく、うまく表現できないことがいっぱいあるでしょう。そこは言語化してはいけない部分で、形や演技、何らかの体験を伴って表現しないといけないと思います。だから、私の中ではモデルづくりという意味もあり、体験化させています。それは自分対モノ、モノ対他人という形です。

JMA:キーワードをいくつか挙げるとしたら?

石黒氏:まず第1が本質を考えることです。次がイメージ思考です。先ほどから申し上げていますが、言語ベースで考えると楽なのですが、どうしても単層化され、ものすごく乱暴な形で単純化されることもあります。そうすると、ディテールが見えなくなってしまうのです。そうではなく、情報をイメージベース、体験できるもので思考することにより、情報を多層化したままの状態で考えることが大事です。
オブザベーションでは、「あるがまま」をとらえ、それをさらに飛躍させます。体験化された情報だからこそ、その複雑な情報の中から暗黙知を見出すことが可能になります。例えば、この人はこんな格好をしているから、きっとこういう料理が好きとか、こんな音楽が好みだろうと見出しにくいながらも重要な情報を自信を持って見出すことができ、そこからどんどん発想を膨らませます。飛躍は無限です。

事案が複雑になるほど、体験化で的確なコミュニケーションを

石黒氏:最大の目的はイメージ思考として体験化することです。その第一歩として写真を撮って観察してもらいます。まず目線を作ってもらったうえで、写真をいっぱい並べ、イメージを増やします。そのイメージをベースにディスカッションすれば、恐らくかなり深いレベルで暗黙知探しができるでしょう。最終的にその暗黙知を応用して形にするわけです。

JMA:なるほど

石黒氏:そこでやりたいのが、本質を考えることです。これは毎回、クイズ形式で出しています。今回もやろうと思っています。「本質とは何か」という質問から始めるわけです。これはそれなしにそのものが存在しえない要素、性質になりますが、これはすごく難しいと思います。例えば、携帯電話の本質とは何か?を考えるとすると、携帯電話から抜くと携帯電話ではなくなる要素のことです。通信機能かもしれませんが、本質つまりモノの背後にある軸が何かをとらえるためには、先ほどから説明しているイメージ思考、体験思考しかないのです。そこを考えていただきたいと考えています。

石黒氏:また、「鳥目線」「虫目線」というものがあります。俯瞰と詳細を見ながら、いろいろな目線でものごとを考えていこうというわけです。まず観察してフィールドを探します。次に本質を探し、体験化します。そうすると、何となく本質の産毛みたいなものが見えてきますから、それを想像しながら伸ばしていきます。それででき上るのがモデルです。ものを作って成果物に仕上げるのは、こんなイメージでやっていくべきなのです。できるだけビジュアル回路の方を活発化させる必要がありますね。

JMA:職場の課題を探そうとか、チームの問題を見つけようとすると、どうしても言語でものごとを考えてしまいます。

石黒氏:本当にそうなのです。IDEOではみんな、しゃべるより絵にします。できる人はその辺にあるブロックや粘土を使って、すぐにモデルを作ってしまいます。それを皆で見て、すぐに体験化し、的確にコミュニケーションしていくのです。中には言葉でしゃべる人もいますが、ほとんどが紙に書き、体験化しています。より案件が複雑になればなるほど、このやり方はいいと思えてきます。最初のうちはみんなが戸惑い、混乱しますが、複雑な話でもやりやすくなります。

「皆が一つの脳で考える」コミュニケーション、それが「石黒流デザイン・シンキング」

JMA:石黒さんの考える「デザイン・シンキング」とは何でしょうか?

石黒氏:人間が発想していく際、アイデアを出すのは1つの手段です。哲学やさまざまな情報を共有しながら、体験化を通じて同じフィールドで1つのものを作ります。しかし、ブレインストーミングを勘違いし、いっぱいアイデアを出して次々に×や△をつけて消していくケースが日本で多いです。私がなぜブレンストームを行うかといえばコミュニケーションのためなのです。私がOKを出しても×をつける人がいたとすれば、なぜそうなるかはそれぞれに理由があります。それぞれの理由を共有して理解しながら、進めていくと、結論にたどり着きます。共有のフィールドで遊んでいるというか、体験を究極のコミュニケーション手段としているような感じです。これは最近、気づいたことです。本当に頭をくっつけ、脳みそもくっつけて1つの脳みそで考えるぐらいのコミュニケーションをした末に落としどころを探るという感じになります。

JMA:それが石黒さんの考えるデザイン・シンキングですね。

石黒氏:本には書いていませんが、そうです。実際の研修でもそれをやっていました。本当に浅いレベルではなく、深いレベルで共有して想定をしていました。オブザベーション、ブレインストーミング、ラピッド・プロトタイピングを、たとえば一つのフラスコに入れ、混ぜて作っていくわけです。このうち、ブレインストーミングはコミュニケーション手段なので、1つずつを戦わせながら、1つを紡ぎだすことになります。

JMA:デザインという言葉が出てくると、モノの形状を決めること、ということにとらわれがちですが、個々の意見を出して共有し、チームの意思をまとめるのは、他のことにも適用できますね。

石黒氏:これは何にでも使える万能薬だと思います。使い方さえ把握していれば良いのです。まず、オブザベーションはものの見方ととらえ方、ブレインストーミングは組織の中でどう最適化するかの図式になります。それをさらに加速して本当にいいものかどうかを最終的に確認するには、ラピッド・プロトタイピングで体験化します。そうしなければどれが良いのか、絶対に分かりません。こういうことをやり続けることできっといいものが生まれるというのが、私のデザイン思考です。

JMA:今から、夏の研修が楽しみになりました。

石黒氏:私もとても楽しみです。

JMA:本日はありがとうございました。

【インタビュー了】

PAGE TOP